お茶をすすりながら、好きな本を読む。爆ぜる音で少し目線を上げる。灰の中に炭火が見える。時が緩やかに進む。ある時は、自ら釣ってきた鮎を炭火で焼いて、気の置けない友人と酒を酌み交わす。にぎやかに時が過ぎる。
そんなことを夢見て「囲炉裏」を作った。建築確認申請が必要な地域では、作ることができない設備であるが、そこは山の中、問題ない。
囲炉裏を作ったため、広い吹き抜けが必要となり、玄関を入ると、民宿のような景色になってしまった。
夏は涼しくてよいのだが、冬は寒い家になってしまった。
囲炉裏に火を入れれば暖かくなるのでは、と思われるが、昔から言われているように、囲炉裏は、暖気が天井に上がってしまい、火に面した側だけが暖かい。
炭しか使えない我が家の小さな囲炉裏は炭火に近寄らないと暖かさを感じない。
それでも、心は温かくなる。焚火の周りでは、人は穏やかになるといわれている。
はるか昔、火を燃やすことは、煮炊きだけではなく、野生動物の攻撃から身体を守ることでもあった。
火を前にした安心感は、現代人の遺伝子の中に組み込まれているのだろうか。
お店のために作ったものではない囲炉裏が、今やお店の顔。
寒いときは、赤々とした炭火でお客様をお迎えしたい。